受賞作品発表

伊藤有壱審査委員長の総評

COVID-19ウィルスの影響で世界中の人の行き来が途絶え、想像もしなかった時代が訪れた中、広島に集まった優れたアニメーション作品は私達審査委員に感動と勇気を与えてくれました。
オンラインでの審議は4カ国の時差、通信環境も含め困難を極めましたが、経験豊かなオットー・アルダー氏をはじめ4人の審査委員からなる独立チームのポジティブな取り組みに日々活気を増し、最終日にはオンラインであることを忘れるほど白熱して、充実の結果にたどり着く事ができました。
応募総数2,339作品からインコンペティションした59作品それぞれに、テーマ、モチーフ、物語、アニメーション表現、サウンド等への特別なこだわりがあり優劣はつけ難い状況でしたが、審査委員の信念を以て推薦された候補に幾重にも討議を繰り返し、広島国際アニメーションフェスティバルにふさわしい決定となったことを誇りに思います。
受賞された作家さんはもちろんの事、審査委員の皆様、国際選考委員の皆さん、通訳さん、フェスティバルディレクター木下小夜子さん、秘書の長尾真紀子さん、そして何よりも、映画祭に応募してくれた作家の皆さんに感謝を捧げます。

国際審査委員長 伊藤有壱

○ 監督名から、監督のホームページやSNS等をご覧いただけます。
○ 視聴はこちらから、著作権者の許諾が得られた部分について、令和2年9月末までご覧いただけます。
(掲載は終了しました。)

グランプリ Grand Prize

ドーター
Daughter / Dcera

  • 2019/ 14'48"
  • 制作国: チェコ
  • 監督: ダリア カスチエヴァ/ Daria Kashcheeva
  • プロデューサー: Zuzana Roháčová (FAMU), Martin Vandas (MAUR film)
  • 配給: Luce Grosjean (Miyu Distribution)
[受賞の理由]不穏で時に荒々しいカメラワークが醸す気配、素朴とも言える人形の仕草一つ一つが、今まで見たことがない衝撃的なアニメーション体験でした。しかし、描かれているのは紛れもない娘と父の、互いを思いながらすれ違う心の交流を描いた人間劇であり、その純粋さと深さにおいて応募作中、最も優れている事に、審査委員全員が一致しました。

ヒロシマ賞 Hiroshima Prize

アム アイ ア ウルフ?
Am I a Wolf? / Gorgam-o-Gale Mibaram

  • 2018/ 8'15"
  • 制作国: イラン
  • 監督: アミール フーシャング モイーン/ Amir Houshang Moein
  • プロデューサー: Mohamad Reza Karimi Saremi (Institute for the Intellectual Development of Children & Young Adults)
  • 配給: Institute for the Intellectual Development of Children & Young Adults
[受賞の理由]傑出して美しい映像と調和の取れたサウンドを通じて、現実と演劇、そして映画との境界を曖昧なものにしています。童話『オオカミと七匹の子ヤギ』を翻案とし、サスペンスに満ちた作品です。

デビュー賞 Debut Prize

ビートル イン ジ アントヒル
Beetle in the Anthill / Жук в Муравейнике

  • 2019/ 12'56"
  • 制作国: ロシア
  • 監督: ヴァシーリ エフレモフ/ Vasily Efremov
  • プロデューサー、配給: Vadim Pegasov (Aqwarius Filmz Ltd.)
[受賞の理由]デビュー作として、特に素晴らしい脚本と構成によって描かれた、自由のメタファーとしての物語を高く評価しました。作品のタイトルは1980年代の有名なSF小説からのもので、ここでは、動物園から放たれたひとりぼっちの象が、名も知れぬ街でホームレスの人々と友達になるという、詩的な作風となっています。

木下蓮三賞 Renzo Kinoshita Prize

ウォーム スター
Warm star / Teplaya zvezda

  • 2020/ 4'29"
  • 制作国: ロシア
  • 監督: アンナ クジナ/ Anna Kuzina
  • プロデューサー: Boris Mashkovtsev (Soyuzmultfilm film studio)
  • 配給: Soyuzmultfilm film studio
[受賞の理由]なんと素敵な作品なのでしょう! 冷たい星が、子どもの愛で温かい星に変わるのです。大人の私は、世界は冷たいものだと考えています。しかし一方では、愛を信仰する秘密の宗教の信奉者として、愛こそが唯一世界を変えられるのだとも思っています。子どもの純粋な愛を信じている作品です。

国際審査委員特別賞 Special International Jury Prize

ペル トゥッタ ラ ヴィータ
Per tutta la vita

  • 2018/ 5'19"
  • 制作国: イタリア / フランス
  • 監督: ロベルト カターニ/ Roberto Catani
  • プロデューサー: Davide Ferazza (Withstand), Alessandro Giorgio (Withstand), Pierre Baussaron (Miyu Productions), Emmanuel-Alain Raynal (Miyu Productions)
  • 配給: Luce Grosjean (Miyu Distribution)
[受賞の理由]豊かな質感のドローイング、予測できないメタモルフォシス、そして独特なサウンドによって、観る者はウサギの穴の中に落ちていくような謎めいた旅に誘われます。

スクール オブ ディベロップメント
School of Development / Школа развития

  • 2019/ 5'00"
  • 制作国: ロシア
  • 監督: アナスタシア ソコロワ/ Anastasiya Sokolova
  • プロデューサー、配給: Irina Snezhinskaya (Filmcompany SNEGA)
  • © Filmcompany SNEGA
[受賞の理由]このカラフルでダイナミックなアニメーション作品を高く評価します。時計に管理された現代の生活における、6歳の女の子とその友達のアイロニカルな一日を捉えています。

ザ レイン
The Rain / Deszcz

  • 2019/ 5'00"
  • 制作国: ポーランド
  • 監督: ピオトル ミルチャレク/ Piotr Milczarek
  • プロデューサー: Piotr Furmankiewicz (Fumi Studio), Mateusz Michalak (Fumi Studio)
[受賞の理由]この隠喩的なアニメーションは、シンプルでユーモラスです。どんなスーパーヒーローもこのような状況は嫌がるでしょう。ぞっとするアートワークとシーンが、静的かつ動的な衝動へと向かっていく様子は印象的です。

ザ フィジックス オブ ソロウ
The Physics of Sorrow / Physique de la tristesse

  • 2019/ 27'09"
  • 制作国: カナダ
  • 監督: テオドル ウシェフ/ Theodore Ushev
  • プロデューサー: Marc Bertrand (National Film Board of Canada)
  • 配給: Élise Labbé (National Film Board of Canada)
  • © National Film Board of Canada
[受賞の理由]ブルガリアの作家ゲオルギ・ゴスポディノフの同名小説を基に作られた、大戦前後と冷戦時代を経て生きる男の苦悩を描いた力作です。回想形式で描かれる、ごく個人的な記憶の断片が重層的に交差した映像演出と、作家の特徴である絵画的な表現が強力な効果となって、作者自身の想いとの融合が成功した点を高く評価します。

オージャスティック ハイパー - プラスティック
Orgiastic Hyper-Plastic

  • 2020/ 6'50"
  • 制作国: デンマーク / イギリス
  • 監督: ポール ブッシュ/ Paul Bush
  • プロデューサー: Lana Tankosa Nikolic (Late Love Production), Paul Bush (Ancient Mariner Productions Ltd)
  • 配給: Lana Tankosa Nikolic (Late Love Production)
  • © Ancient Mariner Productions and Late Love production 2020
[受賞の理由]コマーシャルのように軽くて可愛らしい印象の映像です。しかし、美しくデザインされた廃棄物のダンスを見ているうちに、人類とプラスティックの関わりそのものが浮ついた恋愛のようであり、捨てられた「対象」が招いた地球の現状を無視し続ける者への警鐘を感じさせる作品とも受け止めさせる、社会的視点を評価しました。

クラブ
Crab / Kharchang

  • 2020/ 10'46"
  • 制作国: イラン
  • 監督: シヴァ サーデグ アサディ/ Shiva Sadegh Asadi
  • プロデューサー、配給: Institute for the intellectual development of children and young adults (Kanoon)
[受賞の理由]胸が張り裂けるように残酷な物語です。人間の残忍な性質をつまびらかにします。印象的なロトスコープのドローイングとドラマティックなサウンドで、私たちの姿を映し出しています。

トレイシズ
Traces

[受賞の理由]この先史時代についてのおとぎ話を高く評価しました。カメラ下のガラスの上で、砂を用いて制作された、美しく独創的な作品を称えます。

優秀賞 Special Prize

カパエマフ
Kapaemahu

[受賞の理由]数世紀前にタヒチからハワイへ医術をもたらした、4人の伝説的なマフの神話についての作品です。リーダーの名はカパエマフ。神秘的な光と秘密のヒーリングパワーを表現した素晴らしい作品です。

ハウ マッチ ダズ ザ クラウド ウェイ?
How much does the cloud weigh? / Сколько весит облако?

  • 2018/ 5'30"
  • 制作国: ロシア
  • 監督: ニーナ ビシャリナ/ Nina Bisyarina
  • プロデューサー、配給: Irina Snezhinskaya (Filmcompany SNEGA)
  • © Filmcompany SNEGA
[受賞の理由]科学者が雲の観察にとりつかれたあまり、次第に自分の理性的な世界から抜け出していく様子を描いた、この独特な物語を評価します。

NEST
NEST

  • 2019/ 4'10"
  • 制作国: ドイツ
  • 監督、プロデューサー: ソニヤ ローレダー/ Sonja Rohleder
  • 配給: Cord Dueppe (interfilm)
  • © Sonja Rohleder
[受賞の理由]パラダイスの鳥たちの美的ダイナミクスを表現した音楽とデザインのコンビネーションが秀逸です。

マザー ディドゥント ノウ
Mother didn't know / Mor visste Ingenting

  • 2020/ 11'16"
  • 制作国: ノルウェー
  • 監督: アニータ キリ/ Anita Killi
  • プロデューサー: Anita Killi (Trollfilm AS), Marita Mayer (Trollfilm AS)
  • 配給: Anita Killi (Trollfilm AS)
  • © Trollfilm 2020
[受賞の理由]主人公の女の子の心中を象徴化した大きな樽、「心の闇」の中で起こる本当に繊細な出来事の連続を、まさに息を殺して見守りました。単にパペットだけではない様々なストップモーション表現が交差して使われる事で、アニメーションの不思議さを再確認させてくれた事もこの作品の魅力です。

神性
Divinity

  • 2020/ 11'16"
  • 制作国: イラン / オマーン
  • 監督: ファーヌーシュ アベディ/ Farnoosh Abedi
  • プロデューサー: Farnoosh Abedi, Ali Gholami
  • 配給: Farnoosh Abedi, Negah Khezrefardyardad
  • © Negative Art Studio
[受賞の理由]人形アニメーションへのひときわ高いリスペクトと、コンピューターを駆使して再構築する熱意が、画面のすべてから強く感じられた挑戦作です。クラシックホラー映画の演出や、ありそうでなかった人形の質感、美術設定の質の高さ、ともに水準以上であるとともにオリジナルスタイルを確立しつつある事も評価の対象となりました。

ノー ボディ
No body

  • 2019/ 4'33"
  • 制作国: イギリス
  • 監督、プロデューサー、配給: へミン コウ/ Haemin Ko
[受賞の理由]この素晴らしい、カメラ下で描かれた木炭画によって、監督は移民としての個人的な経験に私たちを向き合わせてくれます。身体のイメージと都市の風景を対比させることで、断絶と孤独を表現しています。関連するサウンドに伴われて、動揺とフラストレーションが徐々に希望へと変わっていきます。

ベター
Better

  • 2019/ 5'06"
  • 制作国: イギリス
  • 監督、プロデューサー、配給: エミリー ダウン/ Emily Downe
[受賞の理由]主人公が探検しているジャングルは、本物の森林なのか、あるいは彼女の内面なのか? この作品は様々な表現方法を織り交ぜることで、主人公を取り巻く外界と心の内側とのつながりを表現しています。さらに、短い実写の使用が効果を生み出しています。